馬尾症候群 体験談〜NAOさん (2003・6・4)
(G・シェパード・ファング君の場合)
                                 

 ファングを我が家に迎えてすぐの頃、悲鳴をあげながら足を痛がるので、病院でレントゲン検査をした。この時の検査で、腰仙椎付近にブリッジがあることと軽い股関節形成不全が発見された。他にも重大な症状を発症する程ではないが、数箇所に脊椎の変形があった。そして、変形性脊椎症という病名がついた。
 
 しばらくすると、足を痛がる事はなくなったが、今後お散歩は禁止と病院で言われた。でも、私はお散歩を続けた。足の痛みがなくなってからは、他の症状は特に見られず、ファング自身もお散歩を楽しみにしていたから・・・。
 本当は病気の進行を遅らせる為に、やめたほうが良かったのだろうが、楽しみにしているお散歩をやめることは、生きる喜びをファングから奪うような気がしたのだ。
 そのかわり、室内と屋外の段差にはスロープを作り、出入りの際の腰への負担がかからないようにした。お散歩も歩く距離は極力短く、公園などでゆっくり休むようにして、屋外で過ごす時間は減らさないように心がけた。

 ファングに無理をさせないよう過ごしながら、1年程が過ぎ、病気の進行状態を確認する為、再度レントゲン検査をした。結果は、ほとんど進行はないということだったが、この2度目の検査からしばらくすると、時折足を引きずるような歩き方をすることに気がついた。歩くスピードも以前に比べ遅くなったような気もしていた。
 2度目のレントゲン検査で、病気の進行はほとんどないと言われたのにも関わらず、症状だけが少しずつ現れてきている。レントゲン検査で何箇所かの変形が見られた為、変形性脊椎症と病名はついたが、大きな症状が出るほどの異常ではないということだったし、たまたま通院中の病院に講演のため来ていた神経学専門の獣医師にも診察してもらったが、神経に障害を与えるほどのものではないという診断であった。
 この頃から私は、通常のレントゲン検査ではわからない何らかの原因で、神経が障害を受けているのでは?と考えるようになった。しかし、素人の私には、その原因が何なのか見当さえつかず、話したい事、聞きたい事は山ほどあるのに、病気や体のしくみについての専門知識を持った獣医師に、何をどう話たらいいのか?具体的に何を質問すればいいのか?悩みながらも、それを声にすることは出来ずにいた。
 歩くのにそれほど支障がないうちに何とかしてやりたいという気持ちと、ファングも年だから仕方ないという諦めの気持ちと、2つの感情の間で揺れながら通院を続け、時間だけが過ぎていった。

 そんなある日、ファングは突然、前庭神経炎を発症して1ケ月程寝たきりになった。
一時はもうダメかな?とも思ったのだが、後遺症を残すことなく見事に回復。
 しかし、この病気のダメージは私の想像以上に大きかったようだ。
前庭神経炎は後ろ足の神経に障害を及ぼす病気ではないのだが、室内では歩けるのに、屋外へ出るとほとんど歩けなくなってしまった。
 前庭神経炎を発症してからは、尿漏れや失禁も激しくなり、食事中だろうが、夜中だろうが、留守中だろうが、容赦なくオシッコをしながら部屋中を歩き回るファング。1日に何十回と眠る間もなく床を拭く私の生活が続いた。
 室内では歩けるのだからと、調子の良さそうな時は屋外へ連れ出したりすることも何回かしてみたが、すぐ立てなくなってしまう為、ファングも私も1時間以上室内に戻れなくなってしまう事から、私一人の時はファングを屋外へ出すことは諦めざるを得なくなった。

 ファングが介護を必要とするようになってから、私は犬の病気を解説した一冊の本を購入した。前庭神経炎を発症した時、激しい嘔吐を繰り返し、食事も全く摂れず、衰弱していくファングを目の当たりにしながら、私も、そして病院の先生でさえも、はじめは原因や病名がわからなかったことから、ファングの一番身近で一番の理解者である自分が病気の知識や体のしくみについての知識を持たなくてはいけないと痛感した。
 そんな理由から購入した本に、馬尾症候群の解説があった。
好発犬種であるジャーマンシェパードの雄という点、本に書かれてる臨床症状、すべてがピッタリとファングの状態に一致していた。
 本には、退行性の腰仙椎関節狭窄による軽い疼痛を主訴とする患者の72%は、外科的処置により改善が見られたとあった。慢性的な疼痛・神経障害や尿失禁の症状を持つ患者では、予後は良くないとも書かれていた。
 私はこの本を購入するまで、病気や体のしくみについてほとんど関心を持たなかった。だから、当初病院で言われた神経に障害を来たすほどではないということも100%信じていたし、神経障害を疑いだしてからも自分で詳しく調べることをせずに、漠然と不安をもちながら過ごしてしまっていた。

 馬尾症候群という病気を知った時、すでに1回目のレントゲン検査から2年以上が経過しており、起立困難・腰を左右に大きく振るふらつき歩行・尿失禁に加え、大腿部の筋萎縮・つま先など抹消の痛覚も失われつつある状態のファング。
 今私は、ファングのケースは椎間板の突出などではなく、腰仙椎関節狭窄による馬尾神経の圧迫が原因だと考えている。
 この場合、脊髄造影検査やMRIなどをしない限り、通常のレントゲン検査では見つけることは困難だったのかもしれない。
私がもう少し早く、自分なりにでも病気のことを調べていたら・・・
馬尾症候群という病気についての知識をもっていたら・・・
様々な神経障害が現れる前に、外科的処置をしていたら・・・
そうしたら、今でもファングは、青空の下を元気に散歩をしていただろうか?
 そんな後悔の念とともに、症状が出る前の元気なファングに、大きなリスクを伴い、長期入院やリハビリを余儀なくされる検査や手術を受けさせる決断が、果たして自分にできただろうか?
 私が、病院でそんな感情をもらした時、早い段階で病気を発見できたとしても、大型犬の場合には術後の看護もかなりの重労働で、リスクを伴う手術を、愛犬が十分元気な状態で決断できる飼い主はなかなかいませんよ。と先生になぐさめられた。
 飼い主として、自分の不甲斐なさに腹が立ったり、情けなくなったりと、随分苦しんだが思い通りにならない不自由な体でも、諦めることなく”生”を全うしようとするファングの姿を見て、過ぎたことを後悔してばかりいても仕方ない。大切なのはこれからどう過ごすかなのだ。
 今では、私もそう思えるようになった。

 これからも、ファングの神経障害はゆっくりと、しかし確実に進行していくだろう。
排便を促すこと、寝たきりになった時の床ずれの予防とケア、動けないファングの精神面のケア・・・と、不安がないわけではない。
 でも、ファングが諦めない限り、私も戸惑いながらでも諦めることなくファングと一緒に頑張ろうと思う。
 それでもやっぱり、ファングにはふらつきながらでもいい、最後まで自分の足で歩かせてやりたいと、願わずにはいられない。

             


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