共に暮らしたペットの死を看取る
                〜PLMさん主催の講演会を聞いて
               るんば(2002・11・11)
  

 11月10日に東京の日本獣医畜産大学の構内で行われた講演会を聞きに行ってきました。テーマは「共に暮らしたペットの死を看取る」
 講師はペット研究会「互」主宰の山崎恵子先生、日本獣医畜産大学獣医臨病理教室講師の鷲巣月美先生です。
主催はペットを亡くした方のための話し合いの会、PLMさんです。

 山崎恵子さんの講演では、日本のペット事情の問題点をまず指摘していらっしゃいました。入り口と出口のケアがないということです。
 入り口とは、飼いはじめのケア。
それがちゃんとできていないために、動物も人間もかわいそうな目にあってしまうということです。

 出口のケアとは、ターミナルケア、ペットロスのケアなどです。
アメリカ、カリフォルニア州のデイビス校では、ペットロスホットラインを設け、その相談は研修を受けた獣医学生がボランティアで受けているそうです。
獣医学生にこのボランティアをさせる意義は、ペットの死にまつわる説明が下手と自覚もある獣医師がいるという中、学生時に飼い主の生の声を聞くことで、現場にでたときに役立つ臨床教育となるということでした。
 ペットを亡くした哀しみを誰かに聞いて欲しいと言う飼い主の心にふれることで、より思いやりのある医療ができる獣医師に育つのかもしれないと感じました。

 ペットロスの自助グループの存在もペットロスを助ける大きな役割を担ってるそうです。ペットを亡くした哀しみをいつまでもひきずる自分がおかしいのではないか?と感じる人がとても多いこと。
 周囲の人がそれに拍車をかけてしまうこともあるそうです。
自助グループで体験を共有することで、自分だけではないという安心感を持てるということでした。

 また、獣医師がカウンセリングを受ける機関や自助グループを紹介する旨のパンフレットを飼い主に渡すだけでも、安堵感をもたらすそうです。
実際に訪れるかどうかは別として、必要ならいつでも行けるという安心感。

 ペットの死に一番関わる事が多い獣医師・VTなどの言動・行動がのちに飼い主に与える影響はとても多いそうです。
 ペットを亡くした直後の飼い主は、否定と怒りの感情にかられることもあり、病院のスタッフには、その怒りを吸収できる心理を理解することが大切とのことでした。その対処に仕方によって、飼い主の哀しみからの回復の道のりはずっと違ってくるそうです。

 ペットロスは死別であって、人生における大きなトラウマである。
 体験であり、病気ではない。

 精神科医のアーロン・キャッチャーは、ペットロスをひきずる期間は、平均10ヶ月と言っているそうです。
 ソアレスという精神科医は、平均10ヶ月というデータが出ているのに、ペットを亡くしてまだ1週間くらいしからたっていない飼い主がまだ立ち直れないと相談にやってくるそうです。その相談者に10ヶ月のデータのことを話すと安心するそうです。(^^)

 山崎先生がアメリカの老人病院でみかけたパンフレットのお話をしてくれました。そこには、こんな言葉が記されていたそうです。
「死別の哀しみに対して、自分を大切にしましょう。自分の世話をしましょう。でも、あせってはいけません。」

 また、こんなお話も記載されていたそうです。
ある探検隊が部隊を組み、地元の民をやとってすすんでいたそうです。
ある地点で、地元の民は全く動かなくなってしまたそうです。
いくら日当を倍にしても動こうとしない人達。
ある一人の男がこういったそうです。
「あんまり急ぐと魂が追いつけなくなる。」

 この言葉に心打たれました。
それは、少し前の私の姿そのものでした。
 愛犬ノエルの突然の死の悲しみを十分の味わいつくすことなく、自分のこと以外に忙しく時間と心を使い尽くしていた私。自分を大切にする余裕も無かった忙しい日々。まさに、魂が追いつけなくなっていたのです。
立ち上がることもままならないほど心身ともに疲れ切っていました。
 そうなってやっと、立ち止まって自分を振り返り、大切にする時間をもつことができたのです。

 悲しいとき、辛いときは決して無理はしないで自分を大切にしていいんだ。あせらずにゆっくりと。
自分の心と体に魂がついていける速度でゆっくりと。

 動物たちのほうが魂の速度を良く知って生きている気がします。
若くて元気なとき、老いては穏やかに。病気のときはゆっくりと。
先のことではなく、「いま」を懸命に生きている彼ら。
その純粋な命に教えられる事、癒される事,本当に数多くあります。
自分をゆっくり大切にすること。
彼らに教えられた気がしてなりません。(^^)

 また、山崎先生の講義を聞いた生徒さんの言葉にもとても感動しました。
「大切に育てて、家族の一員として一緒に生活してきたペットを失った時の哀しみは大きい。でも大きければ大きいほどその子を愛した証になるんでしょうかね。
 本当にその子を愛していたなら、その子の死をきちんを受け止めなければならないと思います。それが飼い主の責任であると思います。
死んだペットの生きた証は飼い主だけなんだから。
飼い主がペットと一緒に生きられたことを幸せに思って、新たな生活を築いていくこと、それが何よりもその子の存在を認めたことになるのだろうなと思います。」

                 ★ ★ ★

 鷲巣先生は、獣医師と言う立場から悔いのない最期を迎えるために、飼い主が心がける事を中心にお話してくださいました。

あなたにとってペットはどんな存在か?
ペットにとってあなたの存在は?

 ぺットにとってあなたは全面的に命を含めて委任状を預けている存在ということでした。

 悔いのない最期を迎えるために〜最低限のしつけをしておくこと。
全身を触ることができるのは、とても大切になってくるそうです。それが体を触ることができる子なら、最小限の負担で済む場合もあるとのことでした。

 動物医療の現状と問題点から、人間の医療と比べてどうしても限界があること、検査、診断、処置時の麻酔の必要性があり、経済的な制約もあるそうです。

 動物病院での家族の役割は、獣医師への情報提供であるとのことでした。家族は動物の代弁者。飼い主は動物から命をも含め全権を委任されています。治療方針の決定は全て飼い主に委ねられます。
 その際、インフォームドコンセントと言って、患者、家族に対する十分な情報提供と家族による今後の治療法の選択が行われるそうです。動物とその家族にとって、最良の選択を考え、どこまでの治療を望むのかが話し合われるそうです。

 また、ターミナルケア・QOL(クオリティ・オブ・ライフ)安楽死についてのお話もありました。ここでの安楽死は、不要になった動物に施されるものではなく、病気などの動物にために施す静かで安らかに死をさしているということでした。
 動物にとって最良の選択であるのか、安楽死に対する正しい知識と方法、プロセスを飼い主に説明し、良く話し合わなければならないそうです。
 
 安楽死に立ち向かうにあたって、「最期のお別れ」をすることはとても大切だそうです。動物の最期を見届ける事は、ペットロスの立ち直りに大きく影響するそうです。

 安楽死後、家族に心の動揺が起こる事もあるそうです。
最良の決断だったのか?他の方法があったのではないか?
その思いを支えるのも獣医師の役割だそうです。

 獣医師・家族・ペットとのあいだにハッピートライアングルというあたたかい信頼関係が築けるように・・と先生はおっしゃっていました。
最後まで飼い主とペットと支えようというあたたかく力強い思いが伝わってきて、胸が熱くなりました。

 また、ペットロスへのお話もありました。
助けになることは〜
お葬式、お通夜をする。
同じ体験をした人と話す。
亡くなった動物に手紙を書く。
自分の思いを文章にする。
アルバムを作る。だそうです。

 ペットを亡くした人と話すことは、心をこめて傾聴するのが大切ということでした。
哀しいのは当たり前と認めてあげること。
ゆっくり哀しむ時間を持つようにすすめること。
哀しい気持ちを話すようにすすめること。
その動物に死について質問する事。
共感して聞き、素直な気持ちを表すこと。
共感する心を持ってお悔やみのカードを送るなど。

また、助けにならないことは〜
同情・決まり文句。
他の例と比較する。
元気づけたり、説教したり、叱ったりする。
他のことで気を紛らわすようにすすめる。
他の動物を飼うようにすすめる。(無理やりなど)

ペットロスを難しくすること〜
予期せぬ突然の死
行方不明
たかがという社会反応
家族・友人のサポートがない。
人生の大切な時期を共に過ごした。
大切な人と関係があった動物。
自分の責任
医療に対する不信感。

 同居動物と死別したペットの哀しみもあるそうです。
自己虐待・自分の毛を引き抜く行動を起こしたり、食欲不振などがあり、元気がなくなってしまうそうです。
 多くの場合は1〜6ヶ月くらいでもとの状態に戻れるそうです。
よく状態をみてあげて、必要なら診察してもらうことも大切だそうです。

 スライドの最後にまっすぐ信頼に満ちた瞳を向ける犬の写真と共に
こんな言葉が浮かびました。
「生きている間に絆があったから哀しいんです。」

 その後、質疑応答があり遠方からみえた獣医学生さんからこんな質問がありました。

 今の学校でのカリキュラムにペットロスや飼い主に心理を理解する授業がなく、同じ生徒の中にはペットロスと言う言葉を知らない人もいるそうです。この先、どのような形で学んでいけばいいのか?という質問でした。
 残念ながら、今の日本では、その項目を課題に入れているところは少なく、こういったセミナーに積極的に参加したり、色々な方の話を聞いたり、本を読んで自分で勉強していくしかないという答えでした。
 ですが、こういった質問をしてセミナーに来てくれた獣医師の卵の方がいて本当に嬉しくなりました。
 この先の獣医療が飼い主とペットの心に沿ってくれるよう育ってくれますように。きっと彼らのような学生さんがその未来を育ててくれる気がします。がんばってください!


 その後、一緒に講演会にきたお友達とお茶をして、ゆっくりお話しました。
お互いの亡くなったペットの思いを分かち合う事ができました。
 全く種類の違うペットの飼い主同士の私たちですが、愛する家族を亡くした思い、その生、その死から多くのことを学びました。
 きっとこの先、自分がいろんな困難にぶつかったときも
彼らのひたむきな生き方は私たちを励まし、心を明るく照らすに違いありません。本当に出会えてよかったと。心からそう思うのです。

*講演会のレポートをHPに掲載するにあたって、PLMさんと鷲巣先生から掲載のご許可をいただきました。本当にどうもありがとうございました。

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