前庭炎 体験談〜NAOさん (ファング君・G・シェパードの場合・病気の時は12歳)  2003・2・9
 
 いつもと変わらない朝、突然の嘔吐。 前日も元気にお散歩へ行ったし、食欲も普通だった。 最初は、消化器系の不具合だろうと思い、少し様子を見ることにしたのだが、どうも気持ちが悪いらしく、何度も姿勢を変えながらウ〜ンウ〜ンと唸っている。 そして、数分おきに何度も吐く。
 今まで、こんな風に苦しがって嘔吐することなどなかった。 ただの胃炎や消化不良ではない。何かがおかしい。 ファングの体に何かが起こっていることは確かだが、それが何かわからない。 私の不安は、だんだん大きくなり、それが現実に症状として現れてくる。
 夜には、姿勢を変える為に立ち上がるが、その足腰にふらつきが見られるようになる。 この夜私は、眠ることなく少しでも吐き気が治まるようにと、ファングの体をさすり続けた。
 
  2日目。 私はファングを連れずに、1人で病院へ行った。 かかりつけの病院は分院のためスタッフが少ない。ファングのような大型犬の場合、検査などでは動かないようにする為に人手が必要になる。スタッフがたくさんいる本院での検査になるかもしれない。 具合が悪いファングに、余分な移動で負担をかけたくなかった。
 この日の獣医師は、私は初めて話す獣医師だった。今までずっと診察をお願いしていた獣医師は1ケ月前に退職していた。 ファングの症状を詳しく話した。しかし、新しい獣医師の診断は、胃炎などによる消化器系の不具合によるもの。吐き気止めを処方するから、2、3日絶食させて様子をみて・・・だった。
 私は、消化器系の不具合ではないという自分の勘を信じ、何かはわからないが消化器系以外の原因ではないのかと訴えてみたが、素人扱いされてしまった。 結局、薬はもらわずにそのまま帰宅した。
 
 病院の勤務表を見ると、2日待てば、別の獣医師に勤務が変わる。 しかし、ファングの様子は落ち着くどころか、更に悪くなっていく。
 夜には、とうとう自力では立てなくなり、頭が左側に傾き、まっすぐならなくなってしまった。 ネットでも色々と調べてみるが、原因がわかるはずもなく、どうすればいいのかと、私はパニックになっていた。

  3日目。 立ちあがる事も出来ず、食事も全く摂れない状態が続く。 心配しながらファングの顔を見ると、眼球が一定のリズムで一方向へ流れていく。 こんな症状を見るのは初めてだ。一生懸命考えてみる。 もしかして、めまいがするの? 本当にめまいなら、この眼振の症状も、嘔吐も、斜頚も、ふらついて立てないのも、すべて説明がつく。でも、原因がわからない。
 そんな時、心配してくれたるんばさんが、似ている症状の犬を知っていて、前庭神経炎という病気で、ステロイドとビタミン剤で治療ができることを教えてくれた。 早速、ネットで調べてみると、やはり原因はわからないが、予後は比較的良いことがわかり、少しだけ安心できた。

  4日目。 動けないファングを、母たちに協力してもらい病院へ連れていく。 るんばさんのくれたメールを印刷して獣医師に見せると、病名も治療法もメールの通りだと言う。ただ、年齢的に斜頚の症状は後遺症として残るだろうと言われた。
  私は、原因を聞いてみたが、内耳か脳の異常だと思うが、はっきりはわからないらしい。 原因はわからなくとも、病名と状態と治療法は、はっきりした。 あとは、ファングが再び立ちあがれる事を信じ、できることをやるだけ。 こうして、ファングと私の介護生活が始まった。

  5日目。 まずは、脱水状態にならないよう水を飲ませる事と、衰弱しないよう食べさせる事。 幸い、眼振の症状は消え、めまいも治まっているのか、少しだが食事が摂れるようになった。 ドッグフードは一切、食べようとしないが、病院でもらった療法食の缶詰は食べる。 だが、1度に食べられるのは、スプーン2杯くらいの、わずかな量だ。 これでは、体を維持できない。少量ずつ、1時間か2時間おきに食べさせる。 夜中もファングが目を覚ましたら、水と食事を口元へと運ぶ。
 ステロイドの服用で、感染症にかかりやすくなるというので、オシッコが出たら、すぐに布団を取り替え、体をタオルで拭く。 自分の体が思うように動かないことにイライラするのか、ファングは時々ウーッと唸る。
 少しでも、気分が落ち着くように、床ずれ防止を兼ねて全身のマッサージと寝返り。

 1週間。 4キロ以上体重が減り、見た目にも痩せたのがわかる。しかし、かなり食欲は出てきた。 寝たきりのファングに、少しでも楽しみを与えるため、秋さんに教えてもらった手作り食に切り替えた。缶詰の時より食いつきもいい。
 ファングの介護で、まともに眠れない日々が続いたが、ファングに元気になってほしいという気持ちだけが、私を支えていた。 体の自由を奪われたファングと、疲れきった私を、しずみんさんのレメディが救ってくれた。
 秋さんがお見舞いに来てくれた時、ロンママさんがお見舞いに来てくれた時、立つ事もままならないファングだったが、精一杯の力を振り絞り、テーブルにぶつかりながらも、数歩だけ歩く事ができた。 興奮したのか、ずっと出ていなかったウンチも、これがきっかけとなり出るようになった。 この頃から、ファング自身歩こうとする意欲が出てきた。 しかし、斜頚の症状は改善することはなく、その為、立ちあがろうとすれば反対側に転び、うまく立てても、歩き出せばまっすぐ進めず家具にぶつかったりした。

  3週間。 少しだけ、斜頚の症状が治ってきたような気がする。 頭の傾きにも慣れてきたのか、おぼつかない足取りだが、かなり動けるようになった。 しかし、部屋中を移動しながら排泄をするようになった為、そのたびに私は後始末に追われる。 この頃になると、病状はかなり改善されており、体重も少しずつ元に戻っていった。 私は、安心するのと同時に、疲れからファングに対し、イライラするようになった。
  夜中だろうが、食事していようが、移動しながら転んだり、排泄を繰り返すファング。 私が風呂からあがれば、ファングは糞尿まみれになっている。 ファングのおかげで、あいかわらず眠れず、食事もままならない日々が続く。
 
 ある日、私は床を思いっきり叩き、「いいかげんにしてーっ!」と大声で叫び、泣いた。 ファングは、耳を後ろへ倒し、斜頚で傾いた顔をすくめて、怯えたように上目づかいで私を見つめる。
 そんなファングを見て、私は自分自身がものすごく嫌になった。 ファングだって、病気のせいで今まで出来ていたことがうまく出来なくなってるだけ。 そんな簡単なことが、私にはわからなくなっていた。
 この時初めて、介護というのは、一生懸命になりすぎてはいけないことがわかった。 ただ、がむしゃらに一生懸命になりすぎると、大切なことを見落としてしまう。 そして、限界が必ずやってくる。 時には、自分自身のための時間を持ちリフレッシュする。 それが、介護する側、される側のクオリティ オブ ライフにつながる。 介護する側とされる側の、精神が健康でなければ、病気には勝てないのだ。

 4週間。 るんばさんがお見舞いに来てくれた頃には、後遺症として残るだろうと言われていた斜頚の症状もかなり改善され、元気なファングを見せる事ができた。

 3ケ月。 すべての症状が落ち着いていることから、飲み続けていたステロイドの服用を中止。 しかし、1週間程で再び嘔吐。 病院では、またしても消化器系の不具合と診断されたが、私の判断は前庭神経炎の再発。 無理を言って、再びステロイドを処方してもらい服用。 嘔吐は1回きりで治まり、斜頚や眼振の症状も出なかった。

6ケ月。 ステロイドを再度中止。 今のところ、再発は見られない。

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